World Tour 1981

ある夏の日の
バッド・トリップ

 その27…スケベ人間の休日

休みの日を利用して、調理場の仲間とスケベニンゲンへ遊びにいった。スケベニンゲンが飾り窓に遊びにいったわけではなーい。オランダの海岸沿いのリゾート地、Scheveningenは、正確にはスケフェニンヘンと発音するのかな。シーズンオフなのか、お洒落なホテルや土産物屋、レストランなども閑散としていて、誰もいない浜辺の波打ち際を、灰色の裸の馬にまたがった裸の金髪美女がひとり散歩してたりする。絵になる光景だ。

念のために云っておくが裸の馬とは、鞍やあぶみの付いていない馬ということだ。さらに念を押すと、裸の美女もビキニの水着くらいは身に付けていたぞ。

この海岸から海に向かって桟橋が突き出ていて、その先には展望台のような丸い建物が海上にある。行ってみると、そこの海の上の部分は大きなゲームセンターであった。けっこう広い建物内のフロアの左半分は、最新型のビデオゲームタイプのマシンが並んでいる。しかし、右側半分が凄いことになっていた。ぼくらが子供だった頃の日本にあったゲームマシンが勢ぞろいしていたのである。すなわち、ハンドルを操作して、棒の先に付いたジープを、スクロールするくねくね道に沿って走らせるやつ。クレーンを操作してお菓子をとるやつや、潜望鏡を覗き込んで船に魚雷を当てるゲーム。とにかく、幼い頃に遊んだゲームの全てがここに集結しておりました。走る自動車から撮った実写映像をスクリーンに流して運転するゲームもあったぞ。レストラン「京」の調理場の諸君は神戸の人達であったので、六甲の坂道を下るこのゲームに感激しておった。

海中に没した部分は「ネモ船長の海中ランド」であった。ようするに、ジュール・ベルヌの「海底2万哩」を題材にしたテーマパークである。巨大タコに襲われたり、ノーチラス号で冒険なんかしたりして夕方まで遊ぶ。

一日ここで遊んで海中より戻り、桟橋を岸の方に向かう。もう夕方の8時くらいになっていた。この辺りは緯度が高いので夏の日は長い。と、我々一行は、浜辺やホテルやレストランのテラスが、人で一杯になっているのに驚いた。先ほどまでは閑散として誰もいなかったのに!である。しかも、全員こちらを見ている。正確には彼等は我々を見て大騒ぎしていたわけではなく、我々の後ろの方を見ているようだ。中には望遠鏡や双眼鏡で覗いたり、指差している人も大勢いる。振り返って見ると、後ろの海に沈もうとしている大きな夕日が、ボコンと欠けて半月状態になっていた。これはやばい。ちょっとバッドトリップしすぎたかと不安になって、なるべく現実を直視しないようにして平静を装い、足早にその場を立ち去った。

後日、冷静に状況把握に努めた結果、たまたま日食の観測現場に居合わせたらしいということが判明した。

アシッドにはセットとセッティングが大事だとケン・キージーも言っている。素晴しい!

つづく


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