World Tour 1981

また、バスだよ。

 その24…アテネ〜ブリュッセル〜アムステルダム

バスはギリシャのアテネから北上し、一瞬ブルガリアを抜けてユーゴスラビアをひた走る。穏やかな田園地帯が続く。まだこの頃は、キリスト教徒も回教徒も、互いに仲の良い隣人同士であったはずである。内戦の犠牲者に合掌。ユーゴを抜けるにはまる一日かかったと記憶している。

遠足でもバンドのツアーでも、バスに乗るときは私はたいてい一番後ろに座る。なんでだろうな。悪ガキの定位置か。乗り心地は前の席のほうがいいはずだけどね。このバスでも後ろの席を占めたのは私を含む外国人旅行者だった。やっぱり類は類を呼ぶのね。俺は友達を選ぶ方なんだがね。男なら小さい頃に林の中に秘密基地を造って遊んだか、崖から飛び降る時に傘をおちょこにして怪我をしたことのある奴だな。女の子ならお医者さんゴッコをした経験のあるって娘しか信用しないぞ。

イタリアの国境で兵隊による、乗客の荷物のチェックが入る。皆バスから降ろされて荷物をテーブルに拡げて検査される。またもや赤軍と疑われたらしく、私だけ最後に残されて厳重に調べられる。よっぽど日本赤軍は警戒されてたんだな。俺はウサギさんチームだっつうに。やっと解放されてバスに戻ると、最後列の旅行者連中が心配そうな顔をして待っていた。大丈夫だったかと聞かれたので、うん、麻薬と爆弾を見つけられただけで済んだと答えておいた。

イタリアの高速道路のサービスエリアで昼飯を食う。学食みたいなシステムで適当にパスタを選ぶ。イタリアはどこで食べても外れが少ないといわれる国だが、これはいけなかった。つくりおきのパスタはのびちまって、全然アルデンテではないデンテ。私はどこへ行ってもその土地の食べ物が一番おいしいと思える特異体質なことが自慢、という得意体質の持ち主であるのだが、ま、そりゃ外れもあるわね。是非、いつかもう一度機会を設けてイタリアの食を堪能する旅をして、この仇討ちをしたいものだ。

バスはたまにトイレと食事の為に休憩するだけで、後はひたすら走る。走る。インド、トルコのバスと比べりゃシートも格段に上等になってきてはいるのだが、さすがに座りっぱなしは身体にこたえる。明け方、身体の痛みに眼をさまして外を眺めると、そこはスイスだった。きれいに刈込まれた芝生が道の両脇に広がり、ゴミどころか葉っぱ一枚すら落ちていない。ディズニーランドじゃあるまいし。隣のドイツ人にどう思う?って聞いてみたら、我々ドイツ人も几帳面で潔癖性なところは無きにしもあらずだが、やつらは異常だ、やり過ぎだとのたまった。私もそう思うよ。最近ではジュネーブの公園では使い捨て注射器の空がごろごろ落ちているそうだがな。それもかなり異常だぜ。

フランスを抜けてルクセンブルグからベルギーに入り、私はブリュッセルでバスを降りた。アテネからは2〜3000kmはあるだろうが、流石にヨーロッパの高速道路はアジアン・ハイウェイとはわけが違う。3日弱で着いてしまった。ここからは列車でオランダに行くことにする。駅のホームからベルギーの外交官の卵、マリクの実家に電話をかけてみる。お母さんが電話に出たがあまり英語がわからない。私のフランス語は「これは魚です」の単数形と複数形が流暢に言えるだけなので、話はうまく通じない。結局彼はまだ帰国していないとのこと。まだ旅してるのか?そんなに休暇は長くとれるものなのか??マリクは外交官にはなれなかったのか???

駅からブリュッセルの市街を眺めるが人の気配がぜーんぜんない。昼過ぎだったと思うが通りにも車の姿さえない。どうなってるのだ?シエスタか? やがてやって来た列車には人間が乗っていたので安心する。オランダのアムステルダムまでは200kmくらいしかないのですぐに着いてしまった。バスに比べりゃさすがに電車は速いね。黛俊郎先生も題名の無い音楽会でよくおっしゃっていました。科学の進歩は驚くばかりです。

アムステルダムの駅はどこかで見たことがあるぞ。これがデジャブ現象というやつかと思ったら、それは赤煉瓦の東京駅でありました。きっとこの駅をモデルにしたんでしょう。とりあえず、駅の観光案内所で地図をもらって荷物を預け、貸し自転車に乗って宿探しである。ところがこの自転車、日本人向けではなーい。サドルからペダルまでの距離がテヘラン〜イスタンブール間ぐらいあるのであーる。一番小さい奴にしてもらっても、サドルにまたがった状態では地面に足が着かない。なさけないでござる。おまけにハンドブレーキがなくって、ペダルを逆に漕ぐとブレーキがかかる式である。交差点で信号にひっかかるたんびに馬から降りてまたよじ登る。駱駝に乗るほうが楽かもしれぬよ。

宿はYMCAに決定。夏休みに入ったのか、若者でいっぱいであった。さながら収容所である。そういえば、この町にはアンネ・フランクも隠れてたっけな。アムステルダムの街は駅から見て向かって右側が原宿、左側は歌舞伎町である。てえことはアムステルダムは代々木か参宮橋ってとこだな。変な感じである。原宿側はとってもきれいな健全地帯。対して歌舞伎町側は駅前なのに、でかいぽるのしょっぷなどあったりする。その歌舞伎町側のカフェから眺めてると、後ろを振り返りつつ早足で歩く兄さんの後から2〜3人の警官がこれまた早足で通りすぎたりする。うひひ、やばそうな街である。アムスは面白いところだよ、とっても。

つづく


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